秋の夜に待つ/達富 洋二

一日四〇〇円の朝刊のアルバイトをしていたことがあります。二年近くかかってやっと手に入れたのは天体望遠鏡です。◆土曜日の夕方。二十キロを超える重さの荷台を気遣いながら自転車で暗い空を目指します。その頃の柊野はまだ今のように整備されていなくて夜通し星を見ることができました。◆駐車場の隅を陣取って望遠鏡を組み立てはじめます。川向こうの民家の裸電球の灯を見るとちょっとばかり家に帰りたくなります。◆キャンプ用の燃料で沸かしたココアを飲みながらいい空を待ちます。月が出ている限り星雲や星団を期待することはできません。◆寝袋から目だけを出して雲の切れるのをを待ちます。透き通るような虫の声が響きます。生きている空は気まぐれです。暦通りには星は見えません。草の青い匂いが朝が近いことを知らせます。◆お目当ての星に遭うこともなく空が白んでくることもあります。望遠鏡を冷やしただけです。ですが湿った寝袋をたたみながらあまりに眩しい太陽を見ると来週も来ようと思ったものです。