熱で寝込んでしまいました。昼間の床で四角い天井を見ていると箱の隅に棲んでいることを実感します。◆子どもの頃風邪で寝ていると仕事中の親父が二階に来ては歌ってくれたことがありました。決まって荒城の月です。◆過日、豊後竹田の町を歩きました。四方を山に囲まれた、箱のような小さな城下町でした。岡城の石壁に囲まれたそれこそ箱のような処で、夭折の人、滝廉太郎は遊んでいたのでしょう。◆幼少の頃、父が唄う荒城の月の「めぐる盃」を「眠る盃」と聞き違え、酔った父の膝枕で眠ったと綴ったのは向田邦子でした。そんな彼女は、青山のマンションの小さな部屋を最適な住み心地のいい箱と称し、暮らしていたそうです。◆箱庭、箱絵から弁当箱、鏡台、仏壇まで、日本には多くの箱の文化があります。暮らしの中で育んだ箱空間の意識は私たちの中に生きています。◆積み木の箱や机の引き出しを見たとき、駅弁を開けたとき、部屋の模様替えをするときなどに箱意識はふとよみがえります。横になっていてもよみがえるのですから。