紫色の山/達富 洋二

毎週金曜日は小学校へ行っています。詩や音読の授業をしたり、書写の授業をしたりしています。先日は「歩く」と書写しました。私は大きな筆を持ち私をじっと見つめる瞳の前でえいっと書きます。子どもたちは息をのみながら見ています。そしてううんとうなっています。◆ひらがなは漢字よりも小さく書きます。「はらい」の長さに気をつけなさい。画の長さが違うからね。字配りに注意しなさい。いろいろなことを言いたいのですが子どもたちには何を何と言えばいいのでしょうか。◆さあ手習いの始まりです。子どもたちもえいっとやっています。始筆。送筆。終筆。三年生の頃から何度もしているので大丈夫です。きょうは画の長さです。「はらい」の長さです。字配りです。◆文鎮を左手に持って書いている子どもがいます。どうしてそんなところを汚したのでしょう。鼻の頭に墨が付いままの子どもがいます。「先生、もう少し長い紙はありませんか。ぼくの「く」が入りません。」◆じっと私の顔を見つめる男の子の向こうに見える比叡山はいつのまにか紫色の山になっています。もう京都は冬です。