雫がみっつ/達富 洋二

金沢は雪。新しい駅舎の工事の音も雪に吸い込まれている。アーケードのつなぎ目から落ちる雪解けの水が冷たい。◆休みの日の近江町市場は開いている店も客も少ない。店の中からやたらと声をかけられる。ゆっくり品定めもしていられない。ここでも上から雫が落ちてきた。◆香林坊から片町への道にも雪の山が続く。昼間は薄汚れた白もヘッドライトに照らされて眩しい。つま先で雪を削ってみようとするところなんかは観光客の典型だ。◆表通りから少し奥まった店でのどぐろの塩焼きを食べた。夏に上越で焼いてもらったものより身がかたい。天狗も酔って舞ったという酒によく合う。白子を口に含んでから飲む酒は菊姫。◆翌朝は犀川のほとりを歩いた。大きな川でもなく昔風情の景色でもないが懐かしい。大橋の右手の古い中華料理の店からは青い煙が出ている。◆犀星の記念館には誰もいなかった。入口付近にあるビデオを二回見てから館内を歩く。犀星愛用の杖と帽子がかっこいい。五〇になったらかぶろうと決めて窓に映る姿に帽子をかぶせてみた。向かいの家の屋根からぽつぽつと雫が落ちた。

2004年2月11日 | カテゴリー :