はしからはしまで

やっぱり鉄道がいい。窓から見える景色に生活があふれていて、その感傷と僕の心が重なるのがいい。浮かれた春は車窓の桜を、懐かしい日差しの夏は白い雲を、物思いの季節は休みに入った自然の中を、悲しい時は悲しい景色を。

やってみたいことがある。新幹線をはしからはしまで一気に乗りたい。函館から鹿児島まで。咲く花々も、山のいただきの色も、川に沿ったすすきの群れの大きさも、屋根瓦の粘土もガードレールも。動く景色の中の暮らしをつないで感じたい。

これは一人旅がいいのか二人旅がいいのか。見つけたことを一緒に語りたいような、無粋なおしゃべりはいらないような。

食事はどうするのがいいか。少し前の駅の味を後から食べるのがいいのか、やっぱりご当地で熱いものは熱いうちにがいいのか。どこででも食べられるものであきらめたくない。

こんなことを考えながら見慣れた景色を眺めてる。いつも通過しているだけなのに何だかよく知っている気分。この店は最近できたとか、いつも大きなダンプが停まっているとか、あのお寺の前にはいつも墨の字が貼ってあるとか。そうそう、この橋を渡った家の庭にはこの週末に鯉のぼりが立つはず。去年も一昨年ま4月はじめの週末だったから。