ここ三日,四日。カーステレオの調子がよくない。いつもならお気に入りの音楽が流れる小さな部屋が思いがけず静かな場所となった。そうなると,何処からともなく声が聞こえてくる。
遠くに暮らす息子の声,九州の仲間の声,卒業生,実家の母。そんななか,ラザロという時々夢の中に出てくる男の声も聞こえてくる。
ラザロが言う。「若かった頃の話を聞かせておくれ。」
この三日,四日。ラザロに聞いてもらっている,若かった頃の達富を。
自分が若かった頃のことを言葉にするのは勇気のいることだ。だけど,そうしないと,ぼんやりしてしまう。かすんでしまう。忘れてしまう。忘れる前にいいかげんな思い出にすり替えてしまう。物語にしてしまう。
だから,僕はいま,若かった頃の自分を自分の言葉で語り,ラザロに聞いてもらっている。
ラザロって誰だ?
夢に出てくるだけなのに,僕のことを気にかけてくれている。会ったことも話したこともないラザロに僕は朝晩,聞いてもらってる。