各地の卒業式,人数をおさえてひかえて巣立ちを祝う。どうしても,ひとことだけでも,と前日にそっと言葉を置きにいった。
小さな島の小さな小学校の大きな愛に包まれた教室。子どもにも会わない,先生方とも語らない,そんな今どきの常識と配慮を悲しく思うけど,それでも来てよかった。
おめでとう。三人の卒業生!この学校で学んだことは確かな誇りだよ。
午後はしばし巡礼。
海からの風に煉瓦にも漆喰にもときを感じる。この島を出ていく子どもに平安の鐘を,この島に戻ってくる子どもに安心の鐘を。
人の暮らしの中の石積みは,そのまま歴史の語り手でもある。この石を積み上げた人は何を祈っていたのだろう。
僕は,三人にどんな言葉を贈ればよかったのだろう。切り離された言葉ではなく,この島に生まれ,生きていくつながりの言葉を届けたかったのに。
と,帰り道。ぽつんと椿。苔むした石段に紅がひとつ。
いつもの宿に帰る。
ここにも椿。
ほら,ここにも。
ぽつんと落ちた椿。だけど,ひとつひとつの花弁が大地をくれないに染める。連続した時のなか,「わたしはここにいるよ」の声みたい。
この島は一つ一つの花弁によって紅く染まったあと,今,まさに桜色の巣立ちを迎えている。
神様,この島に導いてくださってありがとうございます。この島の子どもの学びに役立つことができますように。