チャイナタウン/達富 洋二

もうとうに使えなくなったような乳母車に子どもが五人あふれている。ランニングシャツ姿の子どもは五人とも前歯がない。◆この地の日暮れは八時頃。まだまだ明るい。店先というよりほとんど道路に置かれた机で半ズボンの男たちが何かの足の塩焼きを頬張りながらタイガービールを飲んでいる。◆マレー語で話される会話が僕に分かるはずはない。もう何度も店の前を行き来した。どうしても入ることができない。だけどどうしても入りたい何かがある。◆もう五人とも微笑めあえるくらいになったとき数人の客が勘定を済ませた。◆道ばたの机が空いている。とにかく座り先の客のビール瓶を指さした。何か言われたけれど分からない。メニューもない。奥の壁に貼られている古い紙には何も分からない文字が並んでいるだけだ。何とか予想できそうな漢字の品が一つ。「this one!」道路に運ばれたあつあつの餃子を頬張ったとき前歯のない五人の笑顔と目があった。

2005年6月8日 | カテゴリー :