下り道宣言/達富 洋二

四十を越えた。昨年の誕生日に宣言しようかとも思ったが四十までは登り道だと勝手に決め込んでいた。◆八十を過ぎても生きていけるとは思っていない。それなら十分に折り返しは過ぎている。今年こそ宣言だ。◆点滅の信号を走ってまで渡ろうとは思わない。一日の楽しみの晩酌も少し過ぎれば朝まで残る。よいしょっと一声かけてから立ち上がってしまっている。◆吉田拓郎は野に咲く花ではなく転がる石になれと唄った。二十代の歌だ。今転がればそのまま止まらずに何処へ行くか分からない。◆過日広島で世話になったタクシーの運転手は夫婦で炭焼き小屋に住みたいと言っていた。「もうあと十年じゃき。」その笑顔は心なしか悲しかった。◆登り道か下り道か。友の多くは年上だ。追いかけているうちに僕も下り道になっている。教え子の多くは年下だ。追い抜かれまいと頑張っているうちに下り道だ。◆下り道宣言。だけど今はまだ下り道の前半。そんなことばを付け足して自分に言い聞かせている。