夕方六時二十分。僕は北大路通りを西へ歩く。橋を渡る。坂の途中の花の店から小さな花弁が風に舞う。◆白い教会の向こうに蜜柑色と浅黄色の混ざった空。市バスの影が西大路通りを上ってくる。何もかもが夕暮れ。観光客が金閣寺を振り返りながらバスに消える。なごりの花弁がタイヤに巻き上げられ僕の足下に届いた。小さく折れたその桜色はどこから来たのだろう。◆一日中開いている店もある。これから賑わう銭湯が見える。郵便局には乗り捨てた自転車が四台。文房具屋のおばさんが薬屋の娘と笑っている。小料理屋の着物姿の女性の打ち水の音が響く。◆赤い提灯の下に半畳ほどの水たまり。高校生の自転車のスピードに水面が揺れる。赤い光りが少し遅れて揺れる。その上を八重の桜の花弁が小舟のように行ったり来たりしている。この桜色はどこへ行くのだろう。◆僕は長い石段を下りた。六時四十分。金閣寺の森はすっかり暮れていた。