庭に暮らす/達富 洋二

水槽から緑の蛙が居なくなった。金魚の餌を食べないことに心配した下の子が小さな庭に逃がしたらしい。◆家内が紫陽花に水をやっているときに見たらしい。上の子は蜜柑の葉っぱのかげで目撃したと言う。逃がした本人は金木犀の下に置いたとのことでそこを見張っている。現場に戻るということらしい。◆「田んぼで育った蛙が我が家の庭で生きていけるはずがない。」夕飯の時の会話は僕のひと言で片付けられてしまった。どうも不満げな三人の顔は緑の蛙に似ている。◆朝刊を取りに行った長男が萩の下で緑が跳ねたと駆けて帰ってきた。弟を連れ母親を連れバタバタと出て行く。昼間の暑さとは違いひんやりした空気が広がっている。湿った土からは田舎の匂いがする。◆やはり見つけられなかったようだ。瓶の牛乳を飲みながら三人は萩の下あたりを見張る計画を立てている。その時。茶漬けをすすりながら「おらへんおらへん」と言う僕の声の向こうにグワッっと奴の声が響いた。