著しいものなし/達富 洋二


三好達治
冬の日 しづかに泪をながしぬ
泪をながせば
山のかたちさへ 冴え冴えと澄み
空はさ青に
小さき雲の流れたり
音もなく
人はみなたつきのかたにいそしむを
われが上にも
よきいとなみのあれかしと
かくは願ひ
わが泪ひとりぬぐはれぬ
今は世に
おしなべて
いちぢるしきものなく

比叡山のあしもとに虹が二本かかった日、船岡山から見る冬の京都は普段と変わりなかった。◆僕は賀茂川に向かって茶色くなった銀杏の葉っぱを道を歩いた。東の堤のベンチに座って向こう岸を散歩する人の数をかぞえた。北大路橋から丸太町橋まで歩いて西に向かったらさっきと違う色の銀杏の葉っぱが肩に降ってきた。寺町を下がり、一保堂でほうじ茶を買ってから書き初めにと古梅園で紫の墨と画仙紙の大きいのを買った。烏丸から京都駅に出て高いデパートの上から冬の京都を見た。◆おしなべて著しいものはなかった。