母親<おかん

日本語語彙論。「母親をどう呼ぶか」。

僕は他者には「お袋」。親しい連中には「おかん」、本人には「おかん」か「お母さん」。「ママ」と呼んだことはない。

漫画の登場人物はどう呼んでるか。場面によってどう言い換えているか。現在過去未来で区別があるか。学生の研究はなかなか興味深い。

「ママ」と呼んだことがない僕にはおかんに「ママ」のイメージはない。「ママ」と呼びたかったことがないわけではないけれど、「ママ」と呼ぶには「洋ちゃん」と呼ばれなきゃとおもっていたのだろう。「ママ」と呼ぶことはなかった。

おかんは「洋二」としか呼んでくれなかった。

ただ、おかんが呼ぶ「洋二」の声の表情の違いは熟知していた。千差万別。僕は、「洋二」の「よ」で、「よ」が音になる前のおかんの息を吸うわずかな空気の揺れで今のおかんの心情を言い当てる自信があった。やわらかい「よ」と悲しんでいる「よ」、がんばれの「よ」もあれば、あかんの「よ」もあった。おかんの「よ」は生きていた。

神さま、きょうもいつくしみをありがとうございます。放蕩息子の洋二です。