なんとなく、ちょこちょこっと書きはじめたら楽しくなってきた論文の出だしをちょっとだけ。
1.はじめに
令和の教育において、「個別最適化された学び」は重要なキーワードとして位置づけられている。児童生徒一人一人の興味・関心、学習スタイル、発達段階に応じた教育は、知識習得以上に、主体的・対話的で深い学びを実現する基盤である。とりわけ作文指導は、個人の思考や感情を言語化する営みであり、その方法論において「個別最適化」は本質的な意味をもつ。
本稿では、日本の国語教育実践者・大村はま(以下、大村)の作文指導と、イギリスで展開されている『Write Away』の実践を比較し、両者の教育観、指導方法、学習者支援のあり方を検討する。その上で、大村の指導法が、より深い個別最適化を実現している点に着目し、その教育的意義を論じる。
2. 大村はまの作文指導の特質
大村はま(1906–2005)は、戦後の日本における国語教育を牽引した実践者である。彼女の作文指導は、単なる文章技術の習得ではなく、児童生徒が自らの内面を見つめ、思考し、言葉にする過程を丁寧に支援するものである。大村は、児童生徒一人ひとりに異なる「書きたいこと」があることを前提に、作文指導を「個人の内面に寄り添う教育的行為」と捉えた。
具体的な指導は、次のようなプロセスをもつ。
(1)題材の発見と共有:児童生徒が日常の中から興味関心を持った出来事や思考を言語化しようとする段階において、大村は対話を通じて題材の価値を認め、深める支援を行う。
(2)構成の吟味と下書き:初稿では形式にとらわれず、自分の言葉で自由に表現することを促す。
(3)推敲と表現の精緻化:教師とのやりとりを通じて文意や構成の改善を行い、言葉の選び方に対する感覚を磨く。
(4)発表と共有:教室内での読み合いなどを通じて、他者の視点を受け入れる経験を重ねる。
このようなプロセス全体において、大村の実践は、教師の都合による「書かせる」指導ではなく、あくまでも教師が児童生徒の書こうとする意思に寄り添いつつ教えるという「児童生徒の成長のための支援者」としての姿勢を重視していると解釈できる。
3.『Write Away』の構造的アプローチ
『Write Away』は、1998年にイギリスで導入された作文教育プログラムである。対象は主に小学校低~中学年であり、教師用ガイドブックと豊富なモデル教材を通じて標準化された指導が可能となっている。
その指導法は、以下の3段階で構成される。
(1)モデル化(Modelling):教師が優れた文章を読み聞かせ、構成・語彙・スタイルを明示する。
(2)共同作業(Shared Writing):教師と生徒が協同で文を組み立て、文章の生成過程を共有する。
(3)独立作業(Independent Writing):生徒自身が学んだ構造や語法を活用して文章を書く。
『Write Away』は文種(ジャンル)ごとの指導を重視し、物語文、報告文、説得文など、目的に応じた表現方法を体系的に学ばせる。そのため、文章の構造的理解や言語形式の定着には一定の効果をあげている。
ただし、構造重視のために、児童生徒自身が選ぶ題材や独自の表現には限界がある。教師の指導によって作文内容や方法が規定される傾向が強く、児童生徒の主体性が制約される場面もある。