我が家の夕飯

今年の春先。夕飯のとき初蝶を話題にしたのは妻だった。「きょう初蝶が芝生の上を飛んどったよ」と聞いたときはやられたと思った。

春になってその年に初めて見かける蝶のことを初蝶という。季節を感じることに勝ち負けはないけれど、やはり敏感でいたい。夜空に散りばめられた星の名前を教えるのは僕の役目。魚屋の旬の魚の食べ方を提案するのも僕。花の名前は妻。いつのまにかの役割で三十年以上になる。

昨夕。暮れなずむ大村湾を眺めながら風呂場の僕の耳に届いたのは、この秋、初めての虫の音だった。

待てよ。初蝶とは言うけれど、初虫とは聞いたことがない。初蝶は春の季語。初虫という言葉は一般的か。初音なのか。たしか初音は鶯の声のはず。「鴬はひと戻りして初音かな」という句は、中学生のときに覚えた。

初蝉は夏の季語。初蛍に初雁。初霜に初雪そして初氷。春に戻って初桜に初東風。どうしても初虫は馴染めない。見たり聞いたりふれたりしながら季節を感じる。それを言葉にしてきた。そんな言葉の生活。虫なんていちばん身近な季節のしるしなのに。

もちろん昨夕の食事の話題の主導権は僕。