大きな舟が隣の町の港に着いたとニュースが知らせてくれた日の午後,ぼくは小さなシンシア号で大村湾に出た。
お月さんが好きでこのカヤックに「シンシア号」と名付けた。急ぐことはない,決まったコースもない,ただ波とたわむれながらパドルを動かす。これが,ぼくのやり方。
ときどき,まねごとのように釣り竿をもってキスやアイナメを連れて帰ることもあるけど,あまり上手じゃない。今までに数えるほどだけどイルカに遇ったこともある。写真を撮るどころじゃないくらい息を止め続けた。
きょうは南からの風。ぼくのシンシア号はいつもの大きな岩にさえたどり着くことができず,月待浦のなかをくるりと2周まわっただけ。