マカロニサラダ

好きな食べ物はとたずねられたら。

かっこつけるなら少しばかり値の張るものや珍しいものをあげたいところだけど,正直言うと,マカロニサラダ。他には,だし巻き,茶碗蒸し,ひじき,かぼちゃの煮付け,おあげのやいたん,しめ鯖,菜っ葉とおあげのたいたん。全部,お袋が子どもの頃につくってくれたものばかり。

今,ひじきやかぼちゃを食べなくなったのは,二十歳までに一生の分を食べ尽くしたから。それほどにお袋の味は僕の身体をつくっている。身体だけじゃない。どんな料亭にはいっても,その店の匂いとお袋の出汁の匂いを比べてる。菜っ葉を切ったときの匂いも,酢で締めたときの匂いも,炊きたてのご飯をよそってもらったときの匂いも,お袋の台所の匂いは格別だ。

「女として,ひとかどの人物になった息子が,自分の晩年に自分の人生の花と言える子育ての頃の思い出の一コマを,自分の手料理とともに思い出してくれることは,自分の人生には意味があったなぁと胸が満たされることです。きっと。」向田だったっけ,人生を見つめている女性の言葉にうなずく。

お袋の味の中でただひとつのカタカナ料理がマカロニサラダ。京都の台所に立つお袋。慣れないカタカナ料理にさぞかし工夫を凝らしたことだろう。その工夫が小学生の僕にはまたたまらなかったにちがいない。覚えていないけどまちがいない。

この次,実家に帰ったら,と思うと週末が楽しみでならない。