風のようにあざやかに

向田邦子を追いかけていたのは学生の頃。柴田翔や庄司薫しか知らなかった僕は向田にやられた。

その向田が通っていた小学校で数百人を前に講演をするなんて、向田に叱られる。でもやってみたい。これがこの話を受けたときに感じたことだ。ことばを学び、ことばで学ぶことを話せばいい。当日まで、僕は何度も向田と打ち合わせをした。彼女のコレクションを真似て買い集めた食器やぐい呑をならべ、彼女が好んだ料理を前に作戦会議をした。

そんなこんなで迎えた11月9日。JRの事故で鹿児島入りが予定よりも遅れはしたが、前夜は悪友と乾杯。現地に緊張感をほぐしてくれる友がいるなんて、本当にありがたいことだ。翌日の話題に一切ふれない愚弟はどこまでいい奴なんだろう。二人で一本を空にした帰り際、「洋二兄、明日はあざやかに!」のひとこと。

そうなんだ、僕は向田の言葉のあざやかさにやられたんだ。それなら「あざやかさでお返しだ!」なんて、できるはずないんだけど。

講演終了、中央駅までの帰り道。あざやかだったのは僕の講演ではなく山下小学校の授業。山下小学校の教師たち。その授業に学ぶ鹿児島の先生たち。そして、そんな「あざやかさ」を言葉にして届けてくれた愚弟の壮。

あざやかな講演はまた次の機会に!と、新幹線にはあざやかに乗り込んだ。