いつまでも冷めないで

今夜は例の麻婆豆腐。えっ!あの時べそをかいてた女の子?って、薄化粧の目元の素敵な美しさと唇から溢れることばの確かさにもう切迫した焦りはない。これからを悠然と楽しもうとしている強さがある。学ぶことの深さを知ってる。そのうえで、そのことの楽しさを待ってる。かかってこい!という強さと、かかっていくからな!という強かさが見える。もう泣きべそなんてどこにもない。

学ぶことにずるといんちきはないよ、なんてえらそうに言ってたぼくは、この新しい大学院生にかつての自分を見ていたのかもしれない。そしてべそをかいていた女の子は、かつてのぼくなんかよりずっとかっこよくあざやかにずるやいんちきを山の向こうに放り投げてしまった。そう、山の向こうに、なにもかも。

麻婆豆腐は食べられなかったけれど、そして目の前のごちそうもほとんど手をつけないでビールばっかり飲んで、隙間がないほどおしゃべりし続けたけど、どんなあたたかいお料理を食べるよりもあたたまった。

なに食べたっけ。昨日までをみんな平らげたんだよね。そう、じゃあ、次は明日を肴にビールを飲もう。はじめの一杯はレモン味のビール。そのあとは、明後日を肴にサッポロビール。

でもやっぱり、次の前菜は麻婆豆腐にしよう。これを食べなきゃ何もかもを山の向こうに放り投げきった気になれないから。つまらない昨日は麻婆豆腐と一緒に平らげよう。そうそう、まだまだ続きの話はたっぷりあるからデザートも麻婆豆腐がいいかもしれない。

そんなこと考えながらの帰りの窓。思いのほか酔っていないし、走って帰れそうだと思った。