球春、故郷まるごと甲子園

朝早く甲子園。急ぐのはいい席を確保したいからだけじゃない。早く球場との一体感を感じたい。

九回に三塁打を放った伊万里高校主将の試合後の言葉。「ここ甲子園やぞ、打たんでどうするってベンチで話していた。アルプス席も上まで埋まって、本当に感謝しかないです」。

本当にその通りだった。昨夏の早稲田佐賀の一塁側アルプスもそうだった。きょうの三塁側もそうだ。野球のルールなんか知らない高校生もいるだろう。生まれて初めて野球帽をかぶった年配も子どもも少なくないはず。

試合後。第三試合の応援団にアルプスを譲る。引き上げる伊万里。応援用の帽子とタオルとペットボトルを入れたレジ袋に地元のスーパーのマークが見える。故郷ごと甲子園に連れて来たんだ。だから甲子園。すぐに一体感ができる。お国ことばも、水菓子を包んだ個人商店名の入ったガス屋のふきんも、日に焼けた肌の色も、土の匂いのする手のひらも。

さて、博多駅。帰りの特急に乗ったら、通路の向こうに創成館高校の応援帰りの母と男の子。「ええ試合やったな」と声をかけたのに人見知り。「よか試合やったなもんねえ」といい直したら、母親が笑ってた。帰ってからパパにどんな話をするんだろう。まるで甲子園を駆け回ったように話すんだろう。カレーライスも焼きそばもイカの串焼きも全部平らげたように自慢するんだろう。僕もここに来るよって誓ったことはひみつかなあ。