握手

午前11時,鹿児島中央駅改札口。仲間が立っていた。最高の一日にしたいんです。と,彼。西郷どんの催しで賑やかな駅前を通り過ぎ,僕たちは霧島連山の見える横川に向かった。

「このあたりの桜は鹿児島でも指折りなんです。遠くに見える霧島連山は,栗野岳から高千穂までどれも個性的で見ていて飽きません。今,新聞でよく目にする新燃岳と硫黄山は煙を吐いています。」
ぎこちないガイドが耳に心地いい。

「昼食の前に寄りたいところがあります。」
彼が案内してくれたのは,まさに僕が息を止めてしまう風景。国鉄だ。いい日旅立ちだ。

駅の横。列車も来ないのに,ベンチに座ってお喋りする年配の女性がこの駅のあたたかさを伝えてくれる。脚をぶらぶらさせて微笑んでくれる二人の笑顔は小学生よりも透き通っている。

「おれたちもいい顔して写真を撮ろう!」

彼の笑顔は合格点以上!僕のくたびれた顔は平均点以下。

「桜の季節は終わりましたが,お連れしたいお店があります。」
彼が歩いて行く先に「桜苑」。ルロイ修道士がオムレツを選んだ店が重なる。僕はルロイ修道士のように患っているわけではなくまだまだ元気いっぱいだけど,この見事な場面になんとも言えず,この場所がきっと大きな思い出になる予感。

霧島横川の郷土料理がずらりと並ぶ。料理長が奥から出てきて言葉をかけてくださる。僕は,指をポキポキすることも忘れ,箸を休めることなく,喋るテンポを緩めることもなく,彼の顔を霧島を交互に長めながら,最後の横川そばまで,全部平らげた。

「先生,死ぬのは怖くないですか。」

彼の突拍子もない質問に,鼻がつんとした。こいつは間違いなく僕の友だ。彼が僕のことを面倒と思うまで,ずっと一緒にいたい。

その後は中学校の図書館で勉強会。集まったメンバーとの熱く,そして短く,そして深い3時間のあと,僕たちは隠れ家に移動した。さっきまでの教育談義とはうってかわった少年のような時間。誰もがいい顔してる。

「ごめん,終電なんだ。」

鹿児島中央駅,20時55分。
あくゆうたちが改札の向こうで笑ってる。こんなとき,振り向くのがうれしいような,そして悲しいような,いや,誇らしいような。僕は親指をつったてて13番線のホームを駆け上がった。