丸竹恵比寿

研究会のあと,けんじと一緒に京都の町を歩いた。

「四条までどうされますか。」とたずねてくれたけんじに,「歩いて行こう。」と言ったのは僕だ。「50代とは思えませんね。僕らよりアウトドアですよ。」という声に弾みをつけて,北大路から四条通りを目指した。それほどたいした距離ではないけれど,夏の京都は夕方でも暑い。

新町を下り,紫明から烏丸に出る。今出川までの途中,トロ箱で野菜を育てている中華料理屋のおやじと話をした。中国の野菜だそうだ。それを使ってメニューをにぎわせるらしい。こんな話はタクシーに乗っていてはできない。もうけものだ。

「御所を抜けよう。少しでも涼しいやろ。」乾御門から堺筋御門まで砂利道を歩く。蝉の声がしているのかしていないのかも分からないくらい。遠くから近づいてくる自転車がはねる砂利の音が懐かしい。高校生の頃,蛤御門近くのベンチに寝転がって村上春樹を読んでいたときの砂利のリズムは今も変わらない。桃林のそばから羊男が出てきそうだ。

松栄堂は店が見え始めるよりも前から香が漂う。丸竹恵比寿と唄いながら男二人の散歩もなかなかいいものだ。二条から室町に入りそのまま南へと歩いた。

両側に呉服屋にまつわる店が並ぶ。長屋が残っている。あの井戸はまだ現役なんだろうか。京団扇,手ぬぐい,組紐,京扇子。古い小学校はミュージアムになっている。御池通。もう一週間もすれば山鉾に人が酔う。

姉三六角蛸錦。めあての店に着いたときには二人とも上着を脱ぎ,袖をまくりあげ,手ぬぐいを顔に当てていた。

「とりあえずビール。1時間20分も歩いたんだから今夜は飲んでもええやろ。」けんじとの乾杯はいつも美味い。