K先生

七夕の夜にK先生と語った。西日を隠すように雲が広がり,天の川は見えませんねと言いつつ,僕たちは屋上でビールを5杯たのしんだ。
 
ひとまわり年上のK先生はやさしいまなざしをしておられる。ときどき遠くを見つめながら,こういう時間はいいものですな,とおっしゃる。昼間は35度を越したはずなのに,その暑さはすでになくなり堀端の葉がざざざと揺れるたびに先生の話題は変わる。
 
誠実な方が居て,あの8月9日のあの瞬間,さっき借りたばかりの本を市電の中で読んでいたらしいのですが,その後,その本を図書館に返しに行かれたそうです。尊い方ですな。
夜釣りのときに岩場でねころぶと背中が痛くてたまりませんな。
蚊が多くて困りますな。
ビールは銘柄が違うと味が違いますな。
K先生の「な」は味があるなあと思っていたらこう言われた。
 
家族の父として身体を大事にしなさい。そして私の友として身体を大事にしてください。
 
帰り際,K先生は歩きながらビールは酔いませんな,とおっしゃったけど,ぼくは何だかK先生がスキップしておられるように見えた。