身体は丈夫なほうで、子どもの頃からかかりつけのお医者というのはなかったけど、「かかりつけのお医者さんが言うには」って言ってみたかった。
そんな僕が40を過ぎてからかかりつけのお医者をもつようになった。歳といい背格好といい、思い描いていた通りのこの先生を僕はひと目で好きになった。酒の席でも親戚との場でも、話題が途切れると「ところで、先日、かかりつけのお医者がさあ」と切り出すのである。もう、完璧なまでにできあがった「かかりつけのお医者シリーズ」の脚本の数は片手では足りない。
そんなかかりつけのお医者に会ってきた。僕が10の歳をとるのと同じように、先生も10だけ歳を重ねてるわけだけど、この歳のとりかたがまた抜群にいい。申し訳ないけれど、ぼく専属のかかりつけのお医者としてとっておきたいくらいだ。
帰りぎわ、「私のところに来るのは具合が悪い時だけでいいですよ。」と言われたとき、もしかするとぼくは先生のお気に入りの患者の一人かもしれないぞ、と思った。
確かにお土産を下げて現れる患者は珍しいに違いない。