日曜日の夕方、わずかな晴れ間。何をしよう、何処に行こう、としばし考えて嬉野に行くことにした。県営球場も雨で長い中断のようだし、湯につかりにいくことにした。そうだ、帰りにうなぎでも下げて帰ろう。我ながらいい考えに満足だ。
さて、シーボルトの湯。みなさん常連なのか、浴場に入るとき、みんな「こんにちは」と挨拶してる。湯につかっている人も、洗ってる人もみんな「こんにちは」だ。
そうなるとぼくも言ってみたくなる。浴場に入るときに「こんにちは」と言えばよかった。
今さらだけど、もう一度、服を着て、そして脱いで「こんにちは」と入って来ようかな。水でも飲みに行ったあとにしれっと「こんにちは」をする手もないわけではない。
しばし作戦会議。結局、「こんにちは」はできないまま、常連たちは去って行った。静かなお風呂に湯気がすべっていく。今さらながら湯につかりながら「こんにちは」と小さく言ってみる自分がなんだかおかしい。
帰り道。行きつけの鰻屋の暖簾を「こんにちは」とくぐり、大きめのを一尾下げてきた。店に入るときなら言える「こんにちは」が湯に入るときには言えない。京都の銭湯のときはどうだったか。通いつめた信州別所温泉はどうだったか。
そんなことを考えながらの帰り道。ラジオからは初日を落としたひいきの横綱を報じる声。アナウンサーの声にもため息が聞こえる。うまくいきません、いいところがなかった、なにもできないままでした、と繰り返す。ぼくも常連相手に手が出なかった。
よしっ。二週間後にもう一度。千秋楽の夕方は関取みたいにして「こんにちは」と入ってやろうとぼくは考えている。