「こんな春、はじめてです。」という挨拶がめずらしくなくなってしまったこの春。わたしたちは新しい語彙にふれました。
「濃厚接触」や「感染爆発」。そして、「社会的距離」。それらを普通につかっている自分がいます。
すべての命を守るために社会的距離が必要なことはわかりますが、社会的な距離を広げることが心の距離を広げることになってはいないでしょうか。むしろ、一定(2㍍以上だそうですが)の社会的距離を保つからこそ、「ここにいます」「そこにいるんだよね」という互いの存在の近さを感じ続けることが必要です。心の距離と心の態度はこれまで以上に親密であり、配慮を尽くした愛に包まれるべきです。わたしの心は渇きをおぼえつつあります。悲しいことです。
さて、わたしの勤務する佐賀大学は前期の15コマが遠隔授業となりました(社会がよほどの改善に向かわない限り対面授業はないということです)。つまり、動画や無観客授業(無聴衆授業)のライブ配信、大量のワークシートをダウンロードする環境を整えるということです。ICT的授業と言ってもいいかもしれません。
従来、単元学習(もちろん大学生との授業でも)をあたりまえとしてきた私は戸惑っています。記憶再生を目的とせず問題解決のための動画、講義型ではなくアクティブ・ラーニングのためのビデオコンテンツ、たった一人でクリエイティブに書き続けられるワークシート、これらを創るための一週間でした。
今、ほんとうなら、新学習指導要領デビューの春です。こんなにかわいそうな学習指導要領は初めてです。おあずけ状態の学習指導要領なのですから。日本中が、新しい学習指導要領に心弾ませ、アクティブ・ラーニングにトライ&エラーの毎日だったはずです。これまでの、「一斉授業」や「教師主導講義型授業」が見直され、「子ども主体の学び」で時間割が魅力的に動き出すはずだったのです。そんな春をみんなが待ち続け、そんな春のために準備し続けてきたのです。待望の令和2年度だったのです。
だからこそ、ここで逆行したくないです。「講義形式」に戻るなんてもってのほかです。私たちは、COVID-19に立ち向かっている現在、教育を後回しにするのではなく、こんな状況であっても新しい単元学習の道を切り開いていきましょう。予定していた単元学習からさらに高まった単元学習ができるんだ、という希望に満ちた春にしていきましょう。
これ以上の困難な状況はもう起こらないと誰が言えるでしょう。もっとやっかいな規制の中で暮らさなければならない時代がくるかもしれません。そのたびに、教育を一旦停止し、逆戻りし、教えることを後回しにすることはできません。
この状況において、社会的規範に背くことはしません。ですから私の愛用しているあの鞄にもうっすらとほこりがかぶっています。もうずいぶんと列車にも乗っていません。今は自宅で、子どもの研究、単元学習の研究、評価の研究に一生懸命です。
ですが、疲れた頭を切り替えようと伸びをしたとき、わたしには、いつも九州の仲間の顔が見えます。そう、わたしたちはつながっています。わたしたちの教室もつながっています。日本中の子どもがつながっているのです。