手加減

せがれとキャッチボールをした。まちがいなく僕よりも速い球を投げている。嫌な曲がり方をする変化球も織り交ぜている。受けられないのは年老いた握力低下のせいだと,僕は言っているけれど,本当はちょっとした動きの遅れのせいだ。若干,せがれのスピードについて行けなくなってきている。

100球ほど投げるとようやくこちらの身体が温まってくる。しかし息も上がってくる。

遠投をしようというせがれは60メートルでも70メートルでもへっちゃらな顔をして投げている。僕はと言えば40メートルを越えるとずいぶんと山なりになる。投げているというより,どうにかこうにか届かせているという感じだ。

確か,せがれが中学校までは,手加減をしていたのはこっちだった。いつからだろう,手加減が逆になったのは。

夕方5時の鐘がなる。

「球,速くなったなあ。肩,強くなったなあ。」しびれた左手で痛くなった右肩をさすりながら肩で息している僕は,少し前を歩くせがれのがっちりした背中を見つめてはやく一緒に酒を飲みたいものだと思った。こっちはしばらく手加減してやれるはず。