第4章 問いは学習目標へ向かう

大学から届いたURL。なかなかリサーチが行き届いている、と感心。https://sagadaipress.saga-u.ac.jp/archives/17767/

さて、第4章。

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教師は、黒板に書かれたリンゴの絵をそのまま残していた。1個250円。3個450円。その絵を消そうとはしない。生徒たちは、まだノートに問いを書き続けている。教師はその様子を見届けるように、「この問いは、先生のことを知るための問いです。先生が中学校へ来るまでに何をしたのか、どんなことを考えたのか。そういうことを知るための問いですね」と語り始めた。

教師は、今まで立ててきた問いをそのまま受け止めたうえで、問いの向かう先を整理した。少し間を置き、教師は黒板の学習目標を指して、「今からは、教科書の説明文の目標を達成できるための問いを立てるんです」と言った。今日の単元の目標は、「文章の中心となる部分を見つけること」である。ここから問いは、教師の行動を知るための問いから、文章を読むための問いへと向けられていった。

教師はそこで説明を続けず、「みなさん、この目標の中で、分からないことはありませんか」と一つだけ尋ねた。教室は静まり返った。誰も手を挙げず、誰も答えない。教師はそのまま教壇を離れ、一人一人の机の間をゆっくり歩き、生徒の一枚ノートをのぞき込んでいく。生徒がどの言葉に印を付け、どこで鉛筆を止めているのかを確かめていた。

やがて教師は、多くの生徒が学習目標の中のある一語に印を付けていることに気付いた。「要旨」。その言葉が、生徒たちの《私の問い》になり始めていた。教師は教壇へ戻ったが、不思議なことに、「要旨とは何ですか」とは聞かなかった。もっと手前から、「『文章』っていうのは分かりますか」「『中心となる部分』というのは分かっているんですね」と確認していった。

生徒がうなずくと、教師は「じゃあ、問いは立てないということでいいですね」と言った。文章は分かる。中心も分かる。教室には再び考える間が生まれた。教師は「要旨」をすぐに説明せず、生徒が自分の分からなさに向かう時間を残した。

教師が「目標の中で分からないことはありませんか」と尋ねたあと、教室にはしばらく声が出なかった。しかし、机の上のノートには、リンゴの問いとは違う種類の言葉が増えていた。「要旨はなにか」「要旨とは何か」「文章の中心とは何か」「中心となる部分とは何か」「どうしたら中心となる部分を見つけられるか」。あるノートには、「要旨とは どんな 音に味だけのか」と読める文字もあった。おそらく「要旨とはどんな意味なのか」と問おうとしたのだろう。別のノートには、「つけ加えの部分はなんのためにあるのか」とある。問いの対象は、教師の行動から、学習目標の中の言葉へ移っていた。

学習目標を読むことは、そのまま問いを立てることにつながっていた。目標の中にある、自分にとってまだ曖昧な言葉を見付けること。そこから《私の問い》が書かれていく。教師は説明を急がず、生徒のノートと沈黙を見ながら、生徒の机を巡っていた。

 

神さま、きょうもいつくしみをありがとうございます。