学生の頃よく訪れた街のひとつが金沢だ。なんとも心地いいところで,バス停に並んでいる人がみんな知り合いのような気がする。僕にとって金沢は長崎と同じくらい大切なところだ。
そんな縁もあって,博士課程も金沢大学に学んだ。
金沢は僕を大きくしてくれる。国語学者の加藤和夫先生からはその学際的見識,社会言語学的観察とともに人,文化,場面の場面の中で生きていくことの責任と醍醐味を学んだ。
金沢は僕を優しくしてくれる。のどぐろの昆布じめなら近江町の源平。跳ねるような造りなら香林坊のいたる。おやじのあたたかさと味のしみこんだおでんなら菊一。鏡花や秋聲,犀星からも多くの文学性を学んだけれど,この三つの店に学んだ誇り高き人の道は言い尽くせない。
だから,いつも金沢は僕の目を覚ましてくれる。誇り高く生きているか,と僕に語りかける。それは金沢アンサンブルの響きであり,21世紀美術館のインスタレーションであり,四高記念館の厚みである。三軒の店が幾重にも僕を包んでくれる。
だから僕は金沢に立つとしなやかになれる気がする。金沢を歩くと強くなれる気がする。金沢に包まれるともう少しがんばってみようという気がする。誇り高く生きていきたい,そんな気持ちになれる。